伊東美和氏「END OF HEROES]ゾンビ紹介寄稿文:4

こんにちは! 

ゾンビ映画ウォッチャーにして『ゾンビ映画大事典』『ゾンビ論』などの著者、伊東 美和と申します。
『END OF HEROES』のゾンビ設定・デザインの監修を担当しました。
当ブログでゾンビというモンスターについて、ざっくりと紹介させていただいております。
ゾンビノイド第2弾「レッチドガール・フォールンクイーン」の発売を記念して、ゾンビ映画に登場する女性ゾンビの紹介全2回の内、後半を掲載します。

前回は70年代末までの女性ゾンビを振り返った。今回はその続き、80年代以降の女性ゾンビを見ていきたい。前回は年代順に 作品を並べたが、80年代以降は本数が一気に増え、内容的にも多様化するので、似た傾向のものをまとめて紹介する。

 80年代には世界的なホラー・ブーム、スプラッター・ブームが巻き起こる。その起爆剤となったのが、サム・ライミ監督のデビュー作『死霊のはらわた』(81年)である。同作には4匹のゾンビが登場し、うち3匹が女性。その顔は皮膚がひび割れ、白目を剥き、ゾンビ前の原形を留めないほどグロテスクに変化している。彼女らを倒すには、身体をバラバラに切断するしかない。

 ダン・オバノン監督『バタリアン』(85年)には個性的なゾンビが多いが、最も有名な女性ゾンビは「オバンバ」だろう。半ばミイラ化しており、上半身だけしかない彼女のチャームポイントは、(血で?)赤く染まった白髪とピクピク動く脊椎だ。

 同作には80年代スクリームクィーンのリネア・クイグリーも出演しており、全裸のままゾンビになるパンク娘を演じている。彼女のようなセクシー・ゾンビには一定の需要があり、女性ゾンビの定番となっている。

 エロティックな吸血鬼映画を得意としたフランスのジャン・ローラン監督も、セクシー・ゾンビをフィーチャーしたレズビアン・ゾンビ映画『ゾンビ・クィーン/魔界のえじき』(82年)を発表している。

 本作のゾンビは、埋葬から2年後に産業廃棄物の影響で蘇るのだが、見た目は生前そのまんま。彼女は鋭い爪で犠牲者の喉を切り裂き、流れ出た血をすする。ローラン監督らしい耽美&エロスが香る本作だが、ゾンビと恋人の関係をドラマの軸にしており、『私はゾンビと歩いた!』(43年)の系譜にある難病&悲恋ゾンビ映画でもある。

 同じくフランス映画の『魔性のしたたり/屍ガールズ』(87年)は、『ゾンビ・クィーン』の続編として海外向けに売り出した作品だが、実のところ何の関係もない。本作には産業廃棄物の影響で蘇った3人組の女性ゾンビが登場。男性器を食いちぎるなど主に下半身狙いの凶行に加え、人間の女性1人を加えたベッドシーンまで披露する。

 ルセル・サーミエント監督の『デッドガール』(08年)も、セクシー・ゾンビに分類できるだろうか。主人公の落ちこぼれ高校生コンビは、廃病院の地下室で鎖に繋がれた全裸の女性ゾンビを発見。ティーンらしい性欲とエゴを暴走させて自滅する。個人的には好きな作品だが、苦くて救いのない青春ドラマは好みの別れるところかもしれない。

 ゾンビとストリッパーを組み合わせた作品も少なくない。『SVZ ストリッパーVS.ゾンビ』(07年)は、タイトル通りストリッパー対ゾンビのユルいバトル。『ストリッパー・ゾンビランド』(11年)は、感染した女性をゾンビ・ストリッパー(!)に変異させるウィルスの脅威を描く。『クロージング・ナイト 地獄のゾンビ劇場』(16年)では、謎の黒い液体を浴びてゾンビ化した坑夫の集団がストリップ・クラブを襲撃する。

 『ゾンビ・ストリッパーズ』(08年)には、「女王」と呼ばれた大人気ポルノ女優ジェナ・ジェイムソンが出演し、ゾンビになってポールダンスを披露する。ジェイムソンは本作出演後に豊胸手術のシリコンを摘出し、ポルノからの引退を表明した。

 ストリッパーとは真逆の、本来なら神に仕える者がゾンビ化することもある。マイク・メンデス監督『ザ・コンヴェント/死霊復活』(00年)では、悪魔崇拝主義者の儀式により40年前に惨殺された修道女たちが蘇る。修道女ゾンビがぶち殺される度に、鮮やかな蛍光ピンクの血しぶきが飛ぶ世界初の蛍光色スプラッターだ。

 また、ベルギー初のパンデミック・ゾンビ映画を謳う『YUMMY ヤミー』(19年)は、美容整形病院が舞台だけに女性ゾンビが多め。ゾンビ化の原因は、秘密裏に開発された若返り薬の副作用だった。

 ストリップ・クラブや修道院のように女性が多い環境でなくても、状況によっては女性ばかりがゾンビ化することがある。ジェイク・ウエスト監督『ゾンビハーレム』(09年)では、もともと女性の人口が多い村に女性だけが感染するゾンビ・ウィルスが蔓延。ウェディングドレスやネグリジェを身にまとい、植木バサミや斧などで武装した女性ゾンビ軍団が誕生する。

 ラッキー・マッキー、クリストファー・ゴールデン監督の『オール・チアリーダーズ・ダイ』(13年)では、交通事故でまとめて死んだチアリーダーたちが黒魔術によってゾンビになる。ロシアのTVシリーズ『デイ・アフターZ』(13年)では、製薬会社が開発したウィルスにより若くて美しい女性だけがゾンビ化。ゾンビと人間の恋も描かれる。

 女性ゾンビは家庭の中にも現れる。『ママ、喰べないで』(88年)では、新種の性病に感染した主婦たちがゾンビ化。バットをへし折り、鎖を噛み切り、愛する夫や可愛い子供を頭から食い殺す。『悪魔の毒々おばあちゃん』は、『デモンズ』(85年)に触発されたベルギー発のコメディ・スプラッター。誕生日プレゼントの小箱から出た煙を吸ったおばあちゃんが、デモンズばりの凶暴な人食い怪物になる。ルカ・ベルコビッチ監督の『グラニー』(95年)では、ステラ・スティーヴンス演じる老婆が、永遠の生命を得られる秘薬の副作用でゾンビになる。

 難病&悲恋ゾンビ映画には、先に触れた『ゾンビ・クィーン』の他に、ブライアン・ユズナ監督の『バタリアン リターンズ』(93年)がある。

 主人公の高校生は、バイク事故で死なせた恋人を軍開発の蘇生ガスで蘇らせる。その結果、彼女はゾンビになり、自らの意思に反して人間の脳ミソを貪るようになる。ミンディ・クラーク扮する恋人ゾンビは、食欲を苦痛で和らげるため、まるでピアスのように全身に金属片やガラスを突き刺す。

 恋人がゾンビ化しても悲劇に向かわない場合もある。奇しくも同年に制作された『ライフ・アフター・ベス』(14年)『ゾンビ・ガール』(14年)は、主人公がゾンビ化した彼女に振り回されるコメディだ。最後に主人公がゾンビ彼女を片づけ、新たな恋を見つけるところも共通している。

 難病ゾンビ映画は、意思を持ったゾンビが人気を得た2010年代のトレンドのひとつでもある。『スリーデイズ・ボディ』(13年)『マギー』(15年)がその代表だろう。前者はボディホラーの変奏でもあり、自分の肉体が変容して異形のものになる恐怖を描く。アーノルド・シュワルツェネッガーとアビゲイル・ブレスリンが出演した後者は、ゾンビ・ウィルスに感染した愛娘を守り続ける父親の愛と苦悩に焦点を当てる。

 ゾンビ・ウィルスに感染しながら完全なゾンビにはならず、半ゾンビ的な症状を見せる女性たちもいる。『マッドマックス』を彷彿とさせる終末世界を舞台にしたオージー・ゾンビ映画『ゾンビマックス!/怒りのデス・ゾンビ』(14年)もそのひとつ。

 主人公の妹はマッドサイエンティストにゾンビの血液を注射され、ゾンビと人間のハイブリッドと化す。なんと彼女は超能力でゾンビを操ることができるのだ。彼女を含むゾンビ・ハイブリッドは、続編『ゾンビ・サステナブル』(21年)にも登場する。

 大泉洋を主演に迎え、人気コミックを映画化した『アイアムアヒーロー』(15年) では、有村架純演じる女子高生が、歯のない赤ん坊のゾンビに噛まれて半ゾンビ化。人間離れした怪力を発揮するようになる。

 イギリス映画『ディストピア パンドラの少女』(16年)にも半ゾンビが登場する。パンデミック後の近未来を舞台にした同作では、ゾンビに噛まれた妊婦から生まれたハイブリッドが、軍事基地の学校に拘禁されて教育を受けている。彼らは人肉を好むものの人間と変わらない思考能力があり、主人公の少女は特に高いIQを備えている。タイトル「パンドラの少女」が示す通り、彼女は人類に災いと希望をもたらす存在となるのだ。

 ざっと女性ゾンビを挙げてみたわけだが、女性ゾンビ特有の描かれ方には、3つのパターンがあるように思う。ひとつはヒロインがゾンビになるもの。『ホワイト・ゾンビ』に始まるパターンだ。本数は少ないものの、『ウォーム・ボディーズ』(13年)のように男女の役柄が逆のパターンもある。

 ふたつ目は、肉体的に非力だったり、抑圧される立場にある女性が、ゾンビになることで男性に逆襲するもの。そこにフェミニズム的なテーマが透けて見えることもあるが、ゾンビ前・後の落差で見せるコメディや恐怖演出に過ぎないこともある。

 最後は、女性ゾンビがセクシー要員として登場するもの。このタイプの作品がなくなることはないだろうが、時流に沿って、今後はあまり好まれなくなるだろう。

 

 

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