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【原型師インタビュー】ARTFX J ニコラス・D・ウルフウッド TRIGUN STAMPEDE Ver.
イントロダクション スタッフM: インタビュアー改め、スタッフMが今回も服部さんにお話を聞いていこうと思います。 服部さん、本日はお時間をいただきありがとうございました。 また話す機会ができて本当にうれしいです。今日のインタビューのテーマは服部さんが原型師を務めた ARTFX Jニコラス・D・ウルフウッドTRIGUN STAMPEDE Ver. です。 このインタビューの一つのきっかけになったのは私とこの原型の出会いです。2025年2月に開催したコトコレ( ※展示イベント「コトブキヤコレクション」の略称 )でこの原型を初めて見ました。正直いうと本当に感動しましたよ。真正面から写真を撮りたくてしゃがんで撮ってしまいました。それだけでは満足できず、どうしても上からとか、ちょっとした角度からも撮りたくて… でもそこは原型を動かせないので… 服部: 自分が動くしかない スタッフM: そう、でも絶対に私のうしろに並んでいる人たちは「この人なにやっているの?」と思ったんじゃないかな… 服部: 実はこのブログのスタッフMさんでした。 スタッフM: (笑)このブログを読む人は「あのへんな人はスタッフMだった」と思っていただければ。あそこで公開されると知っていたけど、現物をみたときにあんなに興奮するとは思わなかったです。 服部: ありがとうございます。うれしいです。 スタッフM: そもそもコトコレで公開されることは知っていました? 服部: もちろん知ってますよ。コトコレのために準備していたんで。だけどよく間にあったなって。あとお客さんも写真を撮ってくれて、SNSあげてくれてそれを目にするじゃないですか。それは凄く嬉しいですね。 スタッフM: 先日のARTFX J ヴァッシュ・ザ・スタンピード -The Gunman in Black- TRIGUN STAMPEDE Ver.について話した時に、服部さんのトライガンの最初の出会いは漫画やアニメではなく、フィギュアだったと伺いました(笑)。 そもそも最初の出会いはどのキャラクターのフィギュアだったのでしょうか? 服部: それは間違いなくヴァッシュで。 赤いでしょ。バッと目に入ってくる。この全身を赤で包んだキャラは何だろう?ってなるじゃないですか、何にも知らない時に見たら。それでよく見たらめちゃくちゃカッコいいんで。もう完全にヴァッシュですね。 スタッフM: でもその後他のキャラクターのフィギュアも買ったんでしょう(笑) 服部: 海洋堂のアクションフィギュアとか胸像とかはおおよそ全部。 トライガンを作っている造形師さんって当時も今も凄い方が多くて。 壽屋もお世話になっている浅井真紀さん。それからヤマグチ式可動の山口勝久さん。胸像やビネットの榎木ともひでさん。名立たる原型師さんがトライガンを作っていたんで。やっぱり魅力的ですよ。 スタッフM: そのすごい方々の作品に憧れたんですね。 服部: 今も憧れてます。 スタッフM: 服部さんのキャリアで重要なタイミングですね。この質問をしたかった理由は、もしかして最初の出会いはウルフウッドだったのかなと思ったので。 服部: ウルフウッドも同時だけどね。 あと、マクファーレンもヴァッシュ出してたでしょ、アクションフィギュア。あれも強烈で。 スタッフM: よく手に入れましたね。 服部: 日本は手に入りやすかった。あれも凄いフィギュアでしたよ。 スタッフM: コートがね、かっこいい。ヴァッシュの赤いコートはやっぱり最初に印象に残りますね。色だけではなくディテールも頭に残りますよね。 服部: そう。 スタッフM: ありがとうございました。そもそも「最初の出会い」の話している理由はスタンピードのウルフウッドとの最初の出会いについて少し伺いたいことがあるからです。まず、「TRIGUN STAMPEDE」を初めて見た時に、ウルフウッドの新しいデザインがとても好きだった。すごく気に入ったポイントはあのちょっとだけ短いズボンで、これはマニアックな話ですけど、軽い黒い靴になったことに関してすごくうれしくって、最高だなと思いました。服部さんはいかがでしたか。 服部: あれ、カンフーシューズと言われていて。カンフーってわかります?ブルース・リーとかジャッキー・チェンの。 スタッフM: あー、そうか初めてわかりました! 服部: と、丈の短いパンツというか。これはアニメのデザイン考えられた方が、ファッションのトレンドにすごい敏感な方で、たぶん取り入れたんじゃないかなと思いますね。 スタッフM: 細かなディテールですけど、すごく大事ですね。 服部: 足首も見えますから。 スタッフM: そうですね(笑)そこで雰囲気が変わるので私はすごく好きです。 服部: 凄いおしゃれだなと思います。 スタッフM: ありがとうございました。 すこし話題を変えますが、今回はARTFX Jニコラス・D・ウルフウッドTRIGUN STAMPEDE Ver.の彩色原型をインタビューで使えなくて。今日のインタビューに使っているのは実は私がコトコレで出会った原型です。なぜ使えないかというと、嬉しいことに現在(インタビュー当時)池袋で開催されている TRIGUN STAMPEDE EXIBITION に飾られています。私はまだ見に行けてないですが、服部さんもう見に行きましたよね?(笑) 服部: 行きました!このインタビューを行っているのがTRIGUN STAMPEDE EXIBITIONの真っ最中(笑) このブログが公開される頃には池袋での展示は終わっていると思うんですけど、ウルフウッドのデコマス(※彩色原型)が今会場にあるので、今日用意できるのがこの原型のみなんです。 ぼくは2日目に行きました。開催初日は金曜だったので仕事してますから行けなかったですけど、土曜日にはすぐ行きました。 スタッフM: 私もすぐ行きたいです!! 服部: うん、すぐ行ったほうがいい(笑) スタッフM: その関係で私はまだデコマスを見ていないので。 服部: 感動しますよ。 スタッフM: だと思いますよ。次に写真を撮る時はうしろに並んでいる人に気を付けます(笑) 服部: あとピースブリンガーの展示も実現してしまったので! 前回の黒ヴァッシュの話をしている時は本当にわからなかったから(笑) スタッフM: そうですよね。当時展示されるかどうかまだ何もわからないままでピースブリンガーの話をしましたね。ヴァッシュのフィギュアを作った時のために作ったレプリカ。結局私もすごく気になっていて、展示初日の朝からピースブリンガーが展示されているかどうかをネットでずっと調べてて、やっぱりあった! 服部: あった!しかも行ってみたらすごいイイ所に展示されていて。 スタッフM: どのへんでした? 服部: 入ってすぐですね。冒頭のあたりに置いてあります。 凄くありがたいです。 スタッフM: トライガンのファンは皆さん見たいと思います。ピースブリンガーは作品から切り離せないので、しかもあのスケールで見る機会も少ないと思います。ニコラスの彩色原型だけではなく、ヴァッシュのピースブリンガーのレプリカも展示されたんですね。 服部: 無事に展示されてます!(笑) スタッフM: 不思議な縁ですよね。あの時たまたま服部さんの作業デスクにレプリカが置いてあって、それを見て「なんだこれ」と思って。 服部: 社内に置いてあったものがね。 スタッフM: それで気になって インタビュー で質問したので。 服部: 見事に旅立って展示されていました。 スタッフM: 奇跡的な出来事ですよね。 服部: 本当に! スタッフM: ありがとうございました。それでは今日の本題に入りたいと思います。 トピック1: 奇跡のポーズ スタッフM: ここは本当に話さないといけないテーマで、私が原型見て感動した理由とも関係あると思います。個人的には今回は「奇跡のポーズ」だと思っています。すごく説明しにくいですが、ウルフウッドらしさがしっかり表現されていて、その性格もこのポーズから感じます。どのようにこのすごいポーズにたどり着いたかについて詳しく聞きたいです。 服部: 実は企画コンセプトの段階で3種類のポーズ案を出していたんですよ。 2023年の6月に案を出したと思います。その中から今のポーズ案に決めました。これは企画担当の内藤さんと意見が合致して、コレでしょう!というので、今の構成に決まったというような感じで。 オレンジさんの設定資料の中にあった設定画からほぼそのまま、ポーズはいただきました。 で、これもトライガン展に繫がるんですけど、この設定画がしっかり展示されていたんですよ。行った方は、あれ??これフィギュアの元になってるやつじゃない!?って気づかれた方も結構いらっしゃるんじゃないかな。 スタッフM: 奇跡のポーズがどこから来たかわかりました! 服部: おそらく内藤先生が描いたものではないかと思います。線の描き方とか注意書きのコメントとか。ぼくも確かなことは言えないんですが。 スタッフM: だからこんなにウルフウッドらしさとかオーラを感じる。感動的です。 もちろん見せてくださった他の案もかっこいいけど、よく見ると全然違います。 服部: 採用しなかった案2つはパニッシャーがほぼ地面に接しているんだけど、作ったやつは完全に上にバンっと担いでいるので。もう圧倒的に違うオーラがコレにはある。 スタッフM: ここが今回の「鍵」になっていると私は思います。この素晴らしいイラストを立体化するために原型師はどの角度からも造形としての完成形を想像しないといけないので苦労したではないかと思いました。 ※設定資料 ※完成された原型 服部 当然(笑)はい。 でもそれが原型師の仕事なんですよ。イラストから、フィギュアとして、立体として、あらゆる面から見てカッコイイ風に作るのが今の原型師の役割…かなと思うので、ぼくはただそれを全うしました(笑) スタッフM: 普段このポーズをしている人を見かけることはないですからね。こんな大きなものを持っている人のあらゆる面を想像しないといけない。例えばこの服の動きも考えないといけないので大変では? 服部: そもそも実物大のパニッシャーが用意できないからマネも出来ないですよね。 スタッフM: 確かに。今回のフィギュアは「大きなものを持っている」。しかし私はこのフィギュアの顔や体からは「重くてつらい」といったような印象を全然受けなかった。なんかバランスよく担いでいると思います。 服部: パニッシャーを難なく扱うのがウルフウッドじゃないですか。これ扱いづらそうにしてたらカッコ悪いし。やっぱり手慣れた感じで、軽々とではないけど、ヒョイっと操作しちゃうのが、やはりウルフウッドなのかなと。その感じがフィギュアにうまく落とし込めているといいなと思うんですけど。 スタッフM: ポーズがすごくウルフウッドに合っている。だから奇跡のポーズと感じる。でもさらに言うと、このポーズのおかげでウルフウッドもパニッシャーもどんな角度からでも楽しめる。そういう意味でフィギュアをコレクションしている人でも、ウルフウッド好きな人でもこのフィギュアで楽しむ要素は多いと思います。 服部: ありがとうございます。 スタッフM: このポーズをどうやって作ったか知れてよかったです。ありがとうございました。 ここまでポーズ全体について話しましたが、次はフィギュアの顔を見ていきましょう。 トピック2:スタイル 目 スタッフM: アニメを見た人ならわかりますが、ニコニコしている場面が多いにも関わらずニコラスは心に大きな傷を負ったキャラクターです。このフィギュアの目の奥からは真剣、または本気をだして戦う時のニコラスという印象をうけました。やっぱりその意図だったですか? 服部: もちろんそうで。こんなにパニッシャー全開にしちゃってるんだから、戦う気はもう満々でしょう。それはウルフウッドの性格というか。ヴァッシュよりも前に出て、まずやっちゃうっていう、そういう雰囲気を出したかった。 スタッフM: その雰囲気は本当に出せていると思います。二人の「闘う」に対しての姿勢。ヴァッシュはできるだけ「闘い」を避けたい。 一方でウルフウッドは「闘う」と。それは目を見ても分かる。この目はとても好きだったところの一つです。目と顔で強いキャラクターの繊細なところを表現するのは難しいけど原型師はそれ常に考えているんですね。 服部: 物語を知っている方ならわかると思うんですけど、ヴァッシュとウルフウッドでは考え方が本質的に違うじゃないですか。だからこそぶつかることもあったし。そういうキャラクターたちなので、そこの違いもうまくフィギュアに表現できているといいなと思います。 スタッフM: ありがとうございます。 サングラス スタッフM: ウルフウッドというとすぐにサングラスのこと思い出す人が多いと思います。キャラクターの特徴の一つであるのですごく大事な部分となります。普段、人がサングラスを選ぶとき、自分の顔に本当に似合うものを見つけるまでには時間がかかってそんなに簡単に選べないと思います。 このニコラスのフィギュアの顔に似合うサングラスを作るのは大変だったのではないでしょうか。 服部: これは、メガネをかけているキャラをけっこう作ってきたこともひとつあるけど、それよりはまずアニメの設定がしっかりあります。アニメって凄い時間をかけて設定を決めて、それを絵に落とし込んで、それを我々はお借りしています。アニメの設定がその時点で完璧なので、ぼくらの仕事はそれをあますところなく、うまく再現するだけ。そうすることでウルフウッドのしっかりとしたサングラスになる。そういう所も原型師の仕事の内かもしれない。設定イラストを正しく守る。そうすると自動的に似合うサングラスになるっていう。だからスタッフさんが凄い。オレンジさんが凄いんですよ(笑) スタッフM: この原型と最初出会ったときにグレーなので目が見えないですが、このサングラスをかけている原型の顔はすごく印象的だったので顔だけの写真を撮りました。サングラスがすごく似合っているので。 服部: あともうひとつポイントがあって。原型ってグレーじゃないですか。透けてない。だから作るときは大変なんですよ。頭の中でサングラスは透明だと想像して、奥に目があると想像する必要があります。 スタッフM: すごい、目を想定して作らないといけない。 服部: デジタル上だと透けるように表示させられるんだけど、やっぱり現物でどう見えるかがイチバン大事なんで。そこはある程度先読みして、クリアパーツになったら目がどういう風に見えるか、というのは凄く考えて作っています。 スタッフM: その結果はこちらですね、彩色原型では見えるようになっています。 服部: サングラス越しの目があるでしょ。その目がどこに配置されているか。上なのか下なのかとか。ウルフウッドは上の淵のあたりに配置されています。原型の段階ではグレーで透けないので計算して作っています。 スタッフM: ありがとうございます。 髪の毛 スタッフM: 今回の商品には髪の毛の差し替えパーツがあると伺っています。 服部: 髪の毛の差し替えというのは、サングラス有り無しを再現するために前髪が2種類あります。 ここからは今このブログを読んでくれている方だけへの情報かもしれないんですが… サングラス有りの前髪とサングラス無しの前髪は少し造形が違うんです。これは技術的な側面もありますけど、この細かいパーツにサングラスを入れ込むって大変なんですよ。このサングラスをあらかじめとりつけた前髪がまずあります。 逆にサングラス無しのほうは、顔とのスキマ感が大きくなってしまうので、前髪の具合を少し抑えてあります。 スタッフM: そこでバランスを図っているんですね。 服部: そう。なんとなく外観は同じ感じがするんですけど、実は違いますよっていう。 スタッフM: 試行錯誤していますね。この髪はここの位置までとか、もうちょっと後ろに配置しようとかとか、そういうプロセスで(笑)。 服部: そうそう。それで2種類になっています。調整は大変でした、今思い出しましたけど(笑) スタッフM: ありがとうございます。 スーツ スタッフM: サングラス以外の特徴の話を続けると、ウルフウッドのもう一つの特徴はこのスーツの姿で、シャツとスーツのシワでキャラクターの動きを感じます。 服部: これはぼくがイチバン好きなところで(笑)ヴァッシュでもあるでしょ、シワが。 スタッフM: 質問してよかったです。(笑) 服部: 最近だとソフト上の演算とかでシミュレーションできるようなこともあるんだけど、ぼくは全部手作りです。 ただ、シワに関しては自分でポーズとってみて、どういうシワが出来るとかはやらないんですよ。やっちゃうとリアルではあるけど、ちょっと造形的に面白くない。それを見てただ作るだけになっちゃうし。 ぼくは自分で考えて、こういう動きしたら、こういうシワが入るかな?とか頭の中でシミュレーションして、自分で作り起こしていく。そのほうがフィギュアっぽくなるかなと考えています。だからぼくが作るシワはリアルに見えたら嬉しいですけど、全然リアルじゃなくてフィギュア用のシワ。造形的なシワにあえてしています。 スタッフM: 演出ですね! 服部: そうそう。演出。 スタッフM: 今の話はすごく大事で、私もあちこちにあるシワがすごく好き。原型師、アーティストはただリアルを再現するだけじゃなくて、想像しながら自分の手で作るのがすごく楽しいのかなと思いました。 服部: シワがカッコよく決まると動きも決まるし、とにかく自分としても満足できる、そういうポイントですね。それが手作りの醍醐味です。 スタッフM: 買ってくださる人は是非見てほしいですが、ただのシワじゃないですよ。 服部: リアルだとこんな風にはならないと思うんで(笑) 造形的におお!っとなってくれればうれしいです。 スタッフM: シャツのお腹にシワがあるから、お腹で身体のバランスを取っているんだなとわかります。ここは一つのポイントですよ、パニッシャーも担いでいるし。 服部: それで集中しているでしょ。 スタッフM: そうそう、目はやっぱりそこに行くので重要なポイントです。ありがとうございました。 タバコ スタッフM: もう一つ聞きたいのはタバコの造形についてですね。今回個人的に非常に気に入っているところは、このフィギュアではタバコを口ではなく手で持っていることです。 服部: これは社内でもタバコをくわえているほうが良いんじゃないの??っていう意見もあったんですけど、この構図だと手に持っているほうが圧倒的に全体のバランスがいいんですよ。上に大きなパニッシャーが配置されていて、下の左手には小さなタバコ。で、煙がフワっと流れている。その対比が凄くバランスがいいので。 タバコをくわえさせるのどうですか?って言われても、真っ先に否定しました(笑)ないです、ないですって。 スタッフM: 最初からなしだと思ったんですね(笑)。 前回インタビューでキューブを握っているヴァッシュの手の表現はすごく大事だという印象的な話がありました。今回は指でタバコを握っているこの手を服部さんがかっこよく作ってくれました。そこはいかがでしょうか。 服部: ウルフウッドの手ってパニッシャーを扱う人の手だから、ゴツゴツしてないと何となく説得力がないじゃないですか。だからゴツゴツした指にしてあります。 ヴァッシュよりもゴツく感じられるかな。どうかなっていう所ですけど(笑) スタッフM: そういうことでしたか!パニッシャーと関係あるからこのクセのある手の表現がある。納得しました! 服部: 指の関節、ふしぶしも表現してあげて、ウルフウッドっぽさを入れてあげてるっていう。 スタッフM: タバコだけを考えるんじゃなくて、キャラクターの性格、武器のことも含めてこの手を作ることに影響している。だからこんなかっこいい手ができているんですね。ありがとうございます。 謎の距離 スタッフM: 次の質問はすごくマニアックです。この原型と初めて出会ってからすごく気になっているところです。タバコと煙の間に微妙に距離があります。購入して下さる方はぜひ見てほしいのですが、この距離はすごく大事だなと感じています。「そこ見るんですか」と思う方もいると思いますが、いかがでしょうか。 服部: タバコの先端からつなげて煙を出そうって普通思っちゃうじゃないですか。 ところが技術的な面で言うと、そこにダボがつけられないんですよ。要するにタバコの先と煙の先端が繋げられない。しかも煙の始点先端はかなり細く表現したいので。 じゃあどうするかって言うと、もう離しちゃおうって。距離空けちゃおうって。じゃあ保持はどうするかっていうと、ダボをウルフウッドの太もものほうにつける。そうして距離を離すことで、タバコのヒュッとした空気感も出るし、繋げなくてもタバコの先端から煙が出ているように見えるし。一石二鳥というか。 スタッフM: これに対しては「綺麗」という言葉しか言えません。ちなみに今の話を受けて初めて気づいたんですけど、この煙の先端が鋭角に細くなっているのはすごくポイントになっていますよね。 服部: これは絶対やりたかった。細くしたかったので。 スタッフM: こんなにタバコの煙が綺麗なフィギュア初めてみました。それにこの小さな距離でこれだけバランスに貢献しているのはすごいですね。 服部: 距離をあけちゃったのはよくやったなあ、って。 5年前のぼくだったらくっつけちゃってたと思うんですよ。でもいやいやいやと、くっつけなくていいじゃないですかと気づけたのは大きかった。 スタッフM: 初めて見た時からあの「謎の距離」はなんでだろうと、これの意味すごく知りたかった。 服部: なんの疑いもなくタバコの先端から煙出てるって思うでしょ。 スタッフM: そうですね。なんの疑いもなくそう思います。 服部: それは発明でしたね。 スタッフM: そこから新しい技術が生まれた。 タバコとか、ちょっとした道具でカッコよさを見せるとか。例えばサングラスでカッコよさを付けるのは普通だと思いますが、こんなところでもカッコよさが出ます。 服部: タバコでも演出がね、できるんですよね。 スタッフM: ここは絶対に今日聞きたかったんですよ。読んでくださる方は「この人はマニアック」と思うかもしれないけど(笑) トピック3:パニッシャー 全開 スタッフM: 今まで「ポーズ」、「顔」、「手」、「スーツ」について話しましたがニコラス・D・ウルフウッドというキャラクターを「パニッシャーという武器」から切り離すことは不可能です。パニッシャーは一つのキャラクターのように沢山の魅力があります。 今回のフィギュアを初めて見た時に非常にうれしかったのはビームキャノンが目立っていて、「全開」の状況なのです。服部さんは最初から全部を見せたかったのですか。 服部: 気持ちとしてはもちろん見せたかった。だけどこれをまず作らなくちゃいけないというハードルが(笑) スタッフM: 技術的な理由ですか? 服部: そう、技術的な壁があって。ぼくは普段フィギュア作ってますが、こういうメカっぽい造形はそんなに作っていないんですよ。だからまず自分で作れるのかなって(笑) スタッフM: 最初は不安でした? 服部: 不安だったんです。でもやるしかないし、ほかのひとに委ねるのもヤだし、できれば自分で作りたい。ヴァッシュの時に銃は自分で作れたんですよ。じゃあそれと同じ要領でやれば作れるかな…たぶんって(笑) で、パニッシャーを展開してない状態でまず作ったんです。そこでまずバランスを見る。 これが展開したらどうなるか?という所から作りました。 今ブログを読んでいる方が画像を見られているかどうかわからないですが出力品がありまして。こういうのを最初に作りました。 スタッフM: プロトタイプですね! 服部: そう、プロトタイプ。でフィギュアのほうもポーズ付けてない状態で作ってるんですよ。で、ウルフウッドが動いたらどうなるか?パニッシャーが展開していったらどうなるか?というのをまず考えます。だから逆に閉じていくと、閉じたパニッシャーになります。 スタッフM: そもそも正しく閉められる・開けられることが出来るように考えないといけないんですね。 服部: 頭の中でシミュレーションすると正しく開閉できるはず。造形上の空洞は空けていませんが、展開を考えた上でのカタチになっています。 スタッフM: パニッシャーのすべてを楽しめるのは、このフィギュアの魅力のひとつになっていると思います。 服部: あともうひとつ。「劇場版TRIGUN Badlands Rumble」のウルフウッドでは布に覆われたパニッシャーだったんですよ。あそこで一回、布はやっているので、次のとなるとメカむき出しやらないとマズいでしょっていう、そういう思いもありました。 スタッフM: じゃあ服部さんがこのメカを全開しているパニッシャーを作るのはじめて? 服部: 初めて。こんなすごいの何度も作る機会ないでしょ(笑) スタッフM: 今回が貴重な機会だった。はじめて作ったのに魅力的ですよ。 服部: よくここまで出来ましたよね(笑) スタッフM: ありがとうございます。 操作性 スタッフM: パニッシャーの好きなところのひとつは、たとえば発射するためにグリップを操作しなくちゃならない、とか必要な部分を開けたりとか、ビームキャノンならこっちの所をスライドさせなくちゃいけないとか。ただひとつのボタンを押して発射するのではなくて、その操作性が凄く好きです。 服部: これはもともとの内藤先生のメカ描写がまず根底にあり、それを引き継いでオレンジさんがものすごい最新技術でアニメーションで動かしたっていう。この複雑なパニッシャーを映像で動かすってとんでもないでしょ。 スタッフM: シーンがありますね(笑) 服部: オレンジさんが今回一番大変だったんじゃないかなって思う部分なんですけど。で、それを立体にするのも同じく大変でした。 なんですけど、われわれ作業する身としては、そこが楽しむところかなって。大変だけど、楽しいでしょ?って。 スタッフM: ふふ(笑)そうですね。大変だからこの結果が出たと思います。 服部: やりきった時に、ああよかったなって思えます。 グリップ スタッフM: 買って下さる方にぜひ見過ごしてほしくないのは、私は勝手にドクログリップと呼んでますが、後ろにあるグリップを綺麗に握っている手です。そこが、ホントに綺麗に手が中に入っている。 服部: これはもうめちゃくちゃ大変で(笑) まずこのドクログリップに手が入らない。かつ、握りも決まっている、指2本2本と親指。これでいれなきゃいけない。グリップの大きさもあるし、厚みもあるし。 スタッフM: 厚いと握れない。指のポジションも。 服部: それで握らせないといけない。 あとドクロを左右対称で作ってないんです。わかります? スタッフM: もう少し詳しく! 服部: ドクロの模様・表情を左右対称にしてないんです。 おそらく設定では基本左右対称なんですけど、それだとこのフィギュアではゴツい指がうまく入ってくれないのと、あえて少し非対称にすることで、ドクロの表情に禍々しさが出ます。 スタッフM: 怖いドクロっぽさですね。 服部: あとこれをOKにしていただいたオレンジさんの懐の大きさだと思うんですけど。 スタッフM: ちょっとアレンジしないといけなかった。 服部: より邪悪なドクロに見えるのは、あえて少し非対称にした効果で、それで指も入るようにした。ちょっとした工夫ですけど。 スタッフM: ここは目立つポイントになりますからね。 服部: 画像だと非対称とかには気づきにくいと思うんですけど。 これもフィギュアならではの演出ですかね。 スタッフM: 少しアレンジしたことから魅力が生まれる。 服部: これを正確に左右対称にしてくださいってなるとこの手の表情が出ない。 今のかっこよさは出てなかったかもしれない。 スタッフM: 前からももちろん楽しいけれど、後ろのパニッシャーの腕の角度と握っている手も 購入されたらぜひ見て欲しい。 服部: よく担げましたよね、パニッシャー。 スタッフM: ウルフウッドっぽい手がドクロを握っているのがよく再現されています。ありがとうございました。 トピック4:パニッシャーの塗装 新しいパニッシャー スタッフM: これから少しパニッシャーの塗装についてお聞きしたいです。 フレームの黒と蛍光グリーンのパーツの組み合わせは非常に印象的な色合いですね。でもアニメで見ている色を塗装で再現するのはいかがでしたか。 服部: 今回も塗っていただいた方はヴァッシュと黒ヴァッシュと同じ彩色師さんなので、まずはそこの信頼ありきです。シリーズで3つ目という安心感もありますね。 色味の細かなところは「いかに見栄えよく塗るか」みたいなところなので、ただのブラックやグレーではなくて、メタリック色を混ぜてます。 スタッフM: フレームの所は反射しないけど、メタリックな感じが伝わります。スーツの色味とも全然違う。 服部: スーツの色合いとの対比もあります。 スタッフM: 個人的にとても好きだったのはフレームのあちこちに黒の塗装が剥げていて、蛍光グリーンが見える小さな傷。例えばビームキャノンのマズルの近く。無傷のパニッシャーだと魅力的に感じないと思います。 服部: 汚しとしてね、入れています。 スタッフM: この汚し塗装の所が凄く魅力的です。 服部: これもめちゃくちゃ大変で。作るのも塗るのも大変じゃないんですけど、量産すると考えた時に大変(笑) で、まずこの汚しが入る部分、いったい何か所あるんだろうって。 スタッフM: 結構な数ありますよね。 服部: そう。それで開発チームに相談して、何か所なら量産で入れられますか?って聞きまして。そしたらおよそ40箇所以内ならおそらく可能ですって。しっかり事前に打ち合わせで決めてもらったんです。 それでぼくのほうでまずどこに汚しを入れるか、事前にシミュレーションしたんです。それがこの赤い色を付けたところなんですけど。 ※塗装チーム用に、量産可能な箇所に汚し塗装を想定してあらかじめ印を施したパニッシャーの原型見本 スタッフM: この赤いのが、シミュレーションのためなんですね。 服部: で、40箇所とは言え、塗ってみると意外と少ない(笑) スタッフM: 数字としては大きく思えますけどね(笑) 服部: なので効果的に見えるように、だいたい40箇所配置して、それで塗ってあるっていうのは今回けっこう大事なポイントですね。 スタッフM: 原型の段階でマズルとかバレルとかフレームの所にシミュレーションしたと。 大変ですね、見栄えよく見えるようにしないといけないから。 服部: そうそう。彩色師さんにこれをそのままお渡しして、同じ位置で塗ってもらったっていう。 スタッフM: 塗装も今回のパニッシャーの一つのポイントになっている。ありがとうございます。 トピック5:クリアパーツ 内部構造の表現 スタッフM: マニアックな話になるかもですが、個人的にはクリアパーツもすごく好きですよ。コトコレで原型だけを見ていたので、つい先日彩色原型の写真を見るまで使用されるとは全然知らなかった。クリアパーツについて少し聞かせてください。 服部: 中にメカが詰まってないとパニッシャーじゃないじゃないですか。クリアパーツにしたとしても中が透けちゃって空洞が見えちゃったら、なんの意味もないので。ちゃんとメカが入っているように見せるような風に作っています。 ただ造形で実際どうしているのかは、原型師ならすぐわかるんですけど、普通の方はどう思ってるのかな?? スタッフMさんはこれ中どうなってると思います? スタッフM: これ、中になにかありますね。 服部: そうそう。あると思ってほしいんです(笑) スタッフM: ここは中にメカがあって、その上にクリアパーツが入っているというのが私の解釈です。 服部: そう思ってほしい!実は違うんですけど、あえて言わない!秘密。 中にもメカがぎっしり入っています(キッパリ) スタッフM: ここになにも無かったら物足りないと思ってしまいます。ここにディテールが入っていると近くで見たくなる。ありがとうございます。 グリップ スタッフM: 塗装について、勝手にドクログリップと言ってますがこちらの塗装もこの中で目立ちます。 服部: これはね、パニッシャーの顔ですから。だから目立たせてカッコよく、というのは意図的にやっています。 スタッフM: パニッシャーはウルフウッドからは避けられない話。もっと話したいところもあるんですけど(笑) トピック6:ベース ベースの仕様について スタッフM: 次はベースに移りたいと思います。スタンピードでファンが初めてウルフウッドと出会った時は確かに広い砂漠の景色の中でした。このベース見た時にすぐに、あのシーンを思い出しました。 服部: 惑星の砂漠がトライガンの原風景っていうか。それ以外考えられないので、これはもう絶対砂漠。あともう1つ。砂漠はヴァッシュの時も作って2回目だから、砂漠の造形がうまくなった(笑) スタッフM: ふふ(笑)私が見たときはまだ原型だったから、デコマスを見て砂漠でよかったって思います。 服部: あとトライガン展の展示の照明で上からバッと光があたると、凄い綺麗な影が砂漠に映るんですよ。ウルフウッドのシルエットが。 スタッフM: また奇跡のポーズが働いた! 服部: そう!働いたの!これは作っているときは何の計算もしていなかったんですけど。 スタッフM: そうですよね、影までは考えないですよね。 服部: 展示で、わ!こんなカッコいい影が出来ているッ!!って自分でもホントにびっくりしました(笑) スタッフM: 電気がついているディスプレイケースもあるので、持っている人は家でも再現できますね! 黄金比率 スタッフM: 絶対に聞いておきたいことが二つあります。 まずはベースの後ろにあるこの惑星と、月の下にある「エフェクト」のようなものは何でしょうか。最初見た時には雷だと思いましたが、月の大きさも含めてとにかく素敵です! もう一つはフィギュアも含めて全体から感じるこの「動き」というか、流れですね。この惑星の下のほうからタバコの煙の動きまで続く流れがあるように感じます。これを見ると頭の中に本当に「風の音」が聞こえてくるんですよ。 服部: おおー嬉しい嬉しい! これはフィギュアを見た時に、もうビューっとかザァーみたいな、惑星の砂漠の音が鳴ってほしいんですよ、頭の中で! で、造形で雷かもって思われたのは、砂嵐というか砂埃というか。そういうのを演出した。 スタッフM: 少しクリアで透けていますよね。 服部: そう、少し透けているクリアパーツを使っています。 で、背景で風が流れていて、タバコの煙も流れていて。そういう中で戦う気まんまんのウルフウッド!っていう構図が、美しくないですか?(笑) スタッフM: 綺麗ですよ、ビックリしたので。全ての造形に意味がありますね。 服部: で、だいたいのアウトラインで言うとヴァッシュが三角、ウルフウッドが四角の長方形。なんとなくそういう枠に収まる。それがまず綺麗な対比になってるんです。 それである時気がついたのが、ウルフウッドはもしかして黄金比率的なやつにハマるんじゃないかなって。 スタッフM: 凄い話ですよ。ぜひ見せてください。 服部: あてはめてみると風の流れが、砂塵をスタート地点として回転させていくと、ちょうどパニッシャーのドクロに行きつく。これは計算して作れるものじゃないんですけど、作っていって気づいたらこうなった!っていうのがちょっと鳥肌モノで。 スタッフM: これ素晴らしい結果です!フィギュアで黄金比率が入っているって聞いたことある人いないと思いますよ! 服部: 最初から構成するのは不可能だけど、この風から始まっていくこの黄金回転の構図はもうたぶん2度と出来ない(笑) スタッフM: 本当に奇跡のポーズですね。 服部: スタッフMさんが最初から奇跡!美しい!って表現してくれていましたけど、ここに繫がるんだと思います。 スタッフM: あんなに興奮したのはこれが理由かもしれないですね(笑) 目で楽しめることになるので、すごく重要なポイントですよ。よく黄金比にたどり着いたと思います。 服部: たまたまですけどね。 スタッフM: 素晴らしい話、本当にありがとうございます。 二つのベース スタッフM: 個人的には私はフィギュアのベースにすごくこだわっている人なんですが、ヴァッシュとニコラスのフィギュアを隣に並べるとトライガンスタンピードの舞台の背景となる。この二つのベースは並べて見ることでも楽しめますよね。 服部: ヴァッシュとウルフウッドの台座あわせると5つの月が周囲に出ています。一応これもトライガンをご存じの方ならなんとなく意味があるなぁと思ってもらえるかと 。 スタッフM: 計算して作ったんですか? 服部: あえて5つにしています。 あとヴァッシュでジェネオラロックの凄い街並み作ちゃったんで、ウルフウッドでも何かやらないとって。自分で自分を苦しめたっていう(笑) スタッフM: 次は私もとても楽しみにしている話を服部さんから紹介していただきます。 ARTFX Jニコラス・D・ウルフウッドTRIGUN STAMPEDE Ver.のDX版 について聞かせてください! 服部: まず壽屋のトライガンフィギュア好きの方にはビビっとくるアクリル台座を用意しました。どういうことかと言うと、なんと!砂漠から一転、フィギュアを好きに配置できるアクリル台座にしてみました。 スタッフM: あれ?2枚ある???(笑顔)もしかしてヴァッシュのためのベースもついていますか? 服部: そうです!だからヴァッシュをお持ちでない方は是が非でもヴァッシュを手に入れてください。 スタッフM: ヴァッシュにも新しい楽しみが生まれますね! 服部: また新たな楽しみが増えます。フィギュアって買ってきて出して飾って、そこからさらに違う楽しみが増えたら楽しいじゃないですか。 スタッフM: 黒ヴァッシュのバージョンとも同じ高さで並べることができますよね。 服部: そういうこと!(笑)トライガン好きの方はきっと3つ揃えてくれると思うんで。 それでこのアクリル台座だと、かなり近づけて飾ることもできるし、どこに配置してもいいんですよ、好きなシチュエーションで。 スタッフM: やー嬉しい!スペースが少なくても3つとも飾ることができる。 この通常版のヴァッシュに新しいベースって考えたこともなかった! 服部: これはほんと隠し玉。模様は黒ヴァッシュと同様にデザインチームの池田さんがデザインしてくれているので、これまたカッコいい! スタッフM: 黒ヴァッシュの時もカッコいいベースだったから、よく私にも秘密にしていましたね! 服部: ワハハ(笑)それからこういう対決もできるようになる。 スタッフM: 私は絶対DX版だ! 服部: DX版買っておいたほうが後々の後悔がないかと。 スタッフM: それ以外にこのアクリル台座を手にいれる方法はないですからね。 楽しみにしています。ありがとうございました。 最後に スタッフM: 貴重な話ありがとうございました。前回の続きではないですけど、やっぱり商品を目の前にすると「CRAFTSMANSHIP」という言葉、日本語では「職人の魂」のこと考えますね。壽屋のみんなが共通点として持っていることです。作品そのもの、商品、または商品づくりに対して皆思いがあり、それを「CRAFTSMANSHIP」を通じて最終的な完成品に込めていると思います。ただその完成品は結果的なことであり、「CRAFTSMANSHIP」はおそらく全体のプロセスに染みている。説明はしにくいですがクラフトマンシップのことを考えると少しニコニコします。 服部: スタッフMさんにもやっぱり何かを作り出す魂・精神がしっかり宿っていると思いますよ。 前回のブログ記事も我々の手作りじゃないですか。あれをやれたっていうのはかなり大きくないですか。 スタッフM: ひとつのブログ記事で、10人以上は関わっています。クラフトマンシップはね、いるよ、私たちの隣に! 商品を見るとね、 こだわっているからこそ ニコニコします。 ありがとうございました。 服部: ありがとうございました。 スタッフM: 「CRAFTSMANSHIP」の話はこれからも続きます。 今日はありがとうございました! ※左:服部達也(原型師)、右:スタッフM(インタビュアー) Special Thanks: 本記事に載っている原型画像の一部とデコマス画像の全撮影を担当したカメラマンの久保田憲氏。 ※画像は試作品です。実際の商品とは多少異なる場合がございます。 ※撮影の条件・お使いのパソコンの環境などによって、色・見え方が違う場合がございます。 © 2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会
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【原型師インタビュー】ARTFX J ヴァッシュ・ザ・スタンピード -The Gunman in Black- TRIGUN STAMPEDE Ver.
I. イントロダクション 質問 1 インタビュアー: 服部さん、本日はありがとうございます。 服部さんはこれまでコトブキヤで「トライガン劇場版Badlands Rumble」から ヴァッシュ 及び ニコラス の原型を担当した他、2023年の ARTFX J Vash the Stampede TRIGUN STAMPEDE Ver. の原型も担当されました。 さらに今回、 ARTFX J ヴァッシュ・ザ・スタンピード -The Gunman in Black- TRIGUN STAMPEDE Ver. の原型師も務めています。 『トライガン』という作品と非常に長い間付き合っていらっしゃる服部さんの『トライガン』と初めて出会ったときの思い出をぜひお聞かせください。 服部: 『トライガン』と初めて出会ったのは、ぼくがちょうど原型師を目指した頃と重なっていて、いろいろなフィギュアを勉強しているときでした。おそらく2003年あたりです。それで実はコミックやアニメより先に『トライガン』 のフィギュアに出会ってしまったんですよ。海洋堂さんがスタチューやアクションフィギュア、胸像フィギュアを発売していて、それがめちゃくちゃカッコ良かった! 当時の日本では意外とカッコいいフィギュアって少なくて、PVCフィギュアは美少女フィギュアが全盛の頃だったんです。フィギュアブームではあったのですが、当時カッコいいフィギュアというのが唯一『トライガン』だったんです。 それでそのフィギュアを手に入れてからすぐに原作である漫画を読み、どうやらアニメもあるらしいぞ!ということでアニメも観て。そういう流れで『トライガン』という作品にドハマりしたという感じでした(笑) インタビュアー: 面白いですね、かっこよさに憧れて、それを再現するフィギュアを作りたいというのは重要な動機だと思います。カッコイイフィギュアが珍しい時期があったのですね… 服部: はい。当時の海洋堂の技術が凄くて。よかったんですよ、やっぱり。クオリティが高くて。造形心をくすぐられました。 質問 2 インタビュアー: ご説明を誠にありがとうございました。今振り返ってみると『トライガン』の作品のどの要素に一番ハマったと思いますか? 服部: 一番ハマったのはやっぱり内藤泰弘先生の描く線のカッコよさでした。それからキャラクターのカッコよさですね。とにかく内藤先生の描く絵に本当にドハマりしたんです(笑) 線の一本一本がカッコいいんです。髪の毛がビャっと引いてある線とか末端の線まで含めて、全ての線がカッコいい!という所に魅かれて、なんとか立体にしたいなあって。 インタビュアー: 服部さんのキャリアにとってもすごく大事な出会いだったんですね。 自分も『トライガン』を初めて見た時はすごくかっこいいなと思いました。実際の作品に触れる前の印象は、アクションものかな、とかこのキャラクターは強そうだなとかと思っていましたが、実際話をみたらアクションだけではなくもっと深い話もあって、私が憧れたのはそういった重層的な魅力があるところでした。 Ⅱ. ヴァッシュのフィギュアについて 質問 1 インタビュアー: 『TRIGUN STAMPEDE』 という作品とその主人公であるヴァッシュはおそらく「アクション」という側面で世の中に知られていると思います。しかし「ヴァッシュ」には「ガンマン」としてのカッコよさがある一方で「心の中で抱えている悩み」という部分も明らかにある。アニメのストーリーを通じて「ヴァッシュ」の心の中の悩みがアニメの視聴者と少しずつ共有されます。でもそれはアニメにはキャラクターの心の中の悩みを表現する方法が沢山あると思いますが、フィギュアにはいかがでしょうか。「アクション」の表現は入れやすいと思いますが、そうじゃないところはとても難しいと思いますがいかがでしょうか。 服部: フィギュアで一番表現しやすいところはやっぱり顔の表情で。そしてそこがいちばん手にとっていただく方には伝わりやすいし。で、原型師的な側面で言うともうちょっとあって。例えば手の表情とか、コートのなびきとか。そういう所のカーブというか、指の表情とか、ちょっとした足の力の入り具合とか。そういう所に切ない感じを入れ込めるんです。 インタビュアー: そういったところからもオーラが生まれますよね。 服部: そう。それでいかにオーラを感じてもらうか。 ぼくが造形に入れたつもりでも、感じとってもらうのは難しいじゃないですか。それを買っていただいた方に、「なんか違うぞ!あるぞ、コレ!」って思っていただけたら、それが一番最高なんです。 インタビュアー: そこは結構大事な話で、自分は個人的に赤ヴァッシュのフィギュアを買った時にすごくそれ感じて、感動しました。ヴァッシュの強さとヴァッシュが心の中で抱えている悩みを、顔だけじゃなくてこのフィギュア全体にめちゃくちゃ感じました。 ではやっぱりそれを意識して作っていたということですか。 服部: それは毎回どう入れ込もうかなっていうくらい入れ込んでます!どのキャラクターでも共通する話なんですけど。 いかにそれを感じてもらえるように作るかが、原型師の命題というか使命というか。 インタビュアー: そのオーラはフィギュアからとても感じていますよ! 服部: オーラが出たらイチバン最高の状態ですね(笑) インタビュアー: このフィギュアにはそれがすごい現れています!毎日自分のデスクで見ています。 ありがとうございました。 質問 2 インタビュアー: 先ほど、原型を作るプロセスについて少しお話いただきましたが、次はそれについて深くお聞きしたいです。 自分は今まで、原型を作るということはすごいデジタルでの作業と勝手に思ってたんですけれども、以前に服部さんの社内の席に伺った時には『TRIGUN STAMPEDE』のヴァッシュのリボルバーの1:1レプリカが置いてあってすごいビックリしました。そのレプリカは原型を作る時のプロセスと何かの関係あるでしょうか? 服部: はい、1/1の銃のレプリカを作ったというか、あれは原型で作っていた1/8用のデータをそのまま大きくしたものだったんですけど。やっぱり1/1スケールで出してみると迫力って全然違うじゃないですか。ぼくは 1/1スケールで出した 事がなかったので、ぜひやってみようと思って。それで出力してみて自分で持ってみると、重みもあるし、大きさの迫力もあったりで。こういうのを持つと、あ、こういう所に力が入るな、とかそういうのが全部自分で体感できるので。造形をするにあたっては凄く良い事でした。 インタビュアー: だとすると、フィギュアのこの手の特徴、このポーズのこの手の握り方は、やっぱり今の話と繋がっています? 服部: すごい繋がりますね。だからちょっとした手首の角度ってあるじゃないですか。重みがあると持ち方がよりリアルになる。ヘッドの重みで先端やや下がるな、とか手首にこういうふうに力が入るな、とか。そういうのが分かる(笑) インタビュアー:実際に体験してそれを表現する時に参考すると。 服部: はい。でも出力したのはたまたまで、毎回できるものじゃなくコストだって掛かります。 今はもう手元に1/1のレプリカは無いのですが、どこいっちゃったかって言うとオレンジさんにお渡しというか差し上げました。 今年の3月に池袋で トライガン展 があるんですけど、もしかしたら展示されるかもしれないって言うお話しは伺ってます(笑)未確定なので、なかったらごめんなさい。 インタビュアー: 依頼があったんですか? 服部: 依頼はもちろんないです。ぼくが勝手に作りました。 オレンジのプロデューサー渡邊さん、チーフプロデューサー和氣さん、そして武藤監督とご一緒に食事をさせていただくという幸運な機会があったんで、そこで(おそるおそる)こんなのあるんですけど…ってお持ちして、もうその場で差し上げてしまったという(笑) インタビュアー: 貴重な裏話ありがとうございました!このフィギュアを作るには重要なものだったですね。できればその展示を見に行きたいです。 服部: 展示があるといいですね! 質問 3 インタビュアー: 今回の作品(ARTFX J ヴァッシュ・ザ・スタンピード -The Gunman in Black- TRIGUN STAMPEDE Ver.)にはヴァッシュと『TRIGUN STAMPEDE』」のどの側面を表現したかったでしょうか。 服部: この黒ヴァッシュはアニメで言うと『TRIGUN STAMPEDE』の最終話に出てくる姿です。アニメをご覧になってる方はわかると思うんですけど、めちゃくちゃカッコいい!とにかくカッコいい!!間違いなくカッコよくて… それを見て、この赤いヴァッシュをやっておいて黒いヴァッシュをやらないなんで考えられないじゃないですか。だから自分としては、ただただ作りたかった(笑)なのであの最終話のヴァッシュを立体化したいよね、というシンプルな思いがキッカケでした。 インタビュアー: 見た人もあのカッコイイキャラクターを欲しくなると思います。作るのは大変だと思いますが… 服部: 欲しいな!って思ってくれると思うんですよ。 インタビュアー: フィギュアの通常版の顔はもうあのシーンのヴァッシュという感じでしょうか。 服部: アニメの中に出てくる印象的な表情で作った、というのが一番のところです。歯をぐいっと食いしばるような、ナイブズとの戦いの最中のカッコいい表情があって、そこから製作しています。 インタビュアー: この顔は貴重ですね。いつもは戦いたくない人だけど、この時には全面的に戦うことになる。そこからこの顔は生まれている。何か裏があると思って知りたかったんです。ありがとうございます。 質問 4 インタビュアー: ARTFX J ヴァッシュ・ザ・スタンピード -The Gunman in Black- TRIGUN STAMPEDE Ver.を初めて見た時に、個人的にはいわゆる「カラバリ」ではなく別商品の印象を受けました。その理由は「新規要素」があると瞬間的に感じたからです。最初見た時は「同じポーズ」だと思いましたが、よく見ると「ポーズの印象」がすこし変わっています。是非服部さんから今回の商品の「新規要素」について説明いただけると幸いです。 本日は彩色見本を持ってきたのでそれを見ながら説明して下さると幸いです。 服部: 一番わかりやすいポイントは髪の毛ですね。 すごく緊張感あると思うんですよ。それはやっぱり争いの最中で、ぐわっと後ろに流れている。髪の毛の尖っているイメージが実はみんなの心にあるヴァッシュ・ザ・スタンピードに繫がると思うんですね。それをいかにカッコよく表現するか。 インタビュアー: この髪の毛が後ろに流れているだけですごく印象が変わってビックリしました。ここが変わるだけでこんなに印象が変わると思っていませんでした。 服部: 不思議ですよね。作ってるぼくもすごい不思議でした。 言葉で言うと 髪型を変えただけなんだけど、だけど造形は全然違っていて。見た目の印象も含めてなんか全体が変化するんですよ。 インタビュアー: 本当に言葉で表しづらいですが、すごく変わりました。本当に雰囲気が全体的に違います。 服部: さきほど言ったオーラの話に繫がりますけど、オーラがより強化されて強くなったというか。 インタビュアー: そこについてですけど、髪の毛の塗装がすごく印象的な色合いになっています。それについてはいかがでしょうか。 服部: 色はぼくが塗っているわけではなくて、外注さんでもあり友人でもある彩色師さんにお願いして塗ってもらっています。こちらからの依頼の時点でメタリックなカラーで行こうというのは事前に決めていました。で、黒ヴァッシュって特別な状況、状態なので、その雰囲気を一番出せる特別感を色で表現したかったんです。なので通常ヴァッシュとは同じ感じにはせず、この綺麗なカラーで塗ってみたというところです。 インタビュアー: この塗装は本当に印象的なので、どうしてもその点についても教えていただきたかったんです。 服部: ちょっと反射が入るじゃないですか、コレ。メタリックな色に周りの色も反射して入り込むので、いろんな色が入っているように見えて表情が豊かになりますよね。 インタビュアー まさにそうですね。いろんな色の印象を受けます。 このフィギュアに限らず、アニメの印象をフィギュアを買ってくださる方に伝えるためにただアニメと同じ色にするのではなく、やっぱり今話してくださったようなプロセスがありますよね。同じ色にすればいいという話ではない。 服部: そのまま資料から色を取ってくれば良いというわけじゃなく、フィギュアとして立体で見るものだし、立体感がどこまで出せるかみたいなのはいつも考えています。そうすると色もただ塗るだけだと、もの足りないよねっていう。どう工夫した色にしていこうかっていうのは毎回悩むところですけど、大事なポイントです。 インタビュアー: その工程を踏むことによって表現が変わる、与える印象も変わる。本当にすごい作業です。 髪の毛以外についても全体的に色合いが変わりました。例えばよく見るとリボルバーの色も変わっていますね。 服部: これは技術的な側面もあります。赤いヴァッシュになじむ黒色と、黒ヴァッシュになじむ黒色というのがやっぱりあって、全体のトーンで言うと赤ヴァッシュが赤茶寄りのガンメタリックブラック。黒ヴァッシュがどちらかというと紫・青系のブラック。というので塗り分けてます。同じリボルバーであっても状況も違うし、それから全体のトーンも違うので、そこはちゃんと調色も変えて塗装しています。 インタビュアー: 色を合わせる、いわゆるコーディネート。全体のバランスのためにその調整は重要な作業でバランスをそこで図っているんですね。 服部: 黒ヴァッシュに赤茶系のリボルバーだと浮いちゃうので、全体のバランスをとっています。 もちろんトーンはアニメの中でも考えられているので、アニメ設定ありきの色になっていますよ。 インタビュアー: ここも初めて見た時に、 同じリボルバーなのに 色の方向性が少し変わっただけで全然違うなと思いました。 服部: そう。黒の色でも違う色でそれぞれを表現しています。 インタビュアー: 塗装の話題からすこし離れますが、この目線と手と合わせるプロセスについて。ベースが変わったのでこの目線を合わせる時に影響があったんじゃないかと思いますが。 服部: これはぼくというか、商品開発の部署の平本さんが 一番大変だったかなと。組み立ての工程もあるので、目線と銃口をあわせる部分はとても苦労されてると思います。 インタビュアー: それだけ沢山の新規要素があるので単純に「カラーバリエーション」では片付けられないと個人的に思っています。 服部: バリエーション商品というよりは、新商品レベルで技術をつぎ込んでいます(笑) インタビュアー: ありがとうございました。次は透明パーツについて話したいと思います。このキューブの部分を紹介していただければ幸いです。 服部: キューブも造形的に変わっているところだけで言えば、握っている左手とキューブ。 これが新規造形なんですけど、実はまずキューブ握らせるっていうのが、造形的には凄く難しかったんです。すんなり握っているように見えますけど、意外とバランスよく持つのは大変で(笑) インタビュアー: 大きいですからね。 服部: そう、大きいんですよ。指の位置とかもカッコよく見せたいんで、微調整の繰り返しで大変だった箇所でした。 あともう一個。インサート成型と言う技術で、キューブの中の中心に球体、丸いモノがあるような見せ方にしたいなと思って。これまた特殊な成型を商品開発担当に対応していただいてるという。 ※実際の製品は発光しません。 インタビュアー: ディテールが豊富で、いろんな角度から見るとすごく面白くって、ただのキューブではなくて大切なアイテム、というかエネルギッシュなものに見えます。だからこそ作るには苦労したのではないかと思いました。 服部: 劇中だと奥行があるように見えるんですよ。 だからこれを再現どうするか?って考えたとき、まず表面のモールドを彫り込むとか、いやそれじゃあんまり綺麗に見えないとか、成型が困難とか。いろいろ検討して、今のデコマス(=彩色見本)の形に落ち着いたんです。 インタビュアー: 独自な、アニメとまた違う印象を受けるので素敵だと思います。 服部: これはぜひ現物を見ていただきたいですね。買っていただいた方にどういう風になってるのかなってまじまじと見て欲しい。 インタビュアー: 色んな角度から見て楽しめますね。 指の表現についてもうすこし話したいです。どんな作品でもそうだと思いますが、指を表現するのはとても難しいと思います。それはもう顔と同じぐらい難しいのではないかと感じます。例えばキューブを握らせる時に苦労したでのではないですか? 服部: おっしゃる通りで、手の表情って顔の表情と同じくらい大事なんですよ。なので、原型師の人は拘る人は拘る、めちゃくちゃ大事なポイントです。顔か?手か?ぐらいホントにこだわる(笑) 指の節とか関節の表現とか、どう曲げているとか、大きさはどのくらいなのか、とか。 例えば大き過ぎるとバランスが崩れるので、本当に顔と同じぐらい大事です。 インタビュアー: やっぱりそれを意識しながら作っていますよね。 他にはコートの色も変わりました。アニメではコートのかっこよさがとても印象的です。しかしフィギュアでそれを再現する時はやっぱり難しいんじゃないですか?特に黒という色はおそらくただ黒く塗ればいい話ではないと思いますので、やっぱり色の選びとかに悩みがあったと思いますが、それについて少し聞きたいです。 服部: そうですね。黒いヴァッシュだからといって単純に黒で塗るっていうはなくて。やっぱり塗装する時は真っ黒ってあまり使えないんですよ。 インタビュアー: 使えないのにはどういった理由があるのでしょうか? 服部: 真っ黒で塗ると本当に黒にしかならないので表情つけられない。今回の場合でいうとコートに関しては紫、パープル系の色を基本にして黒を表現しています。わかりやすくいうと紫が一番濃くなったような黒です。 インタビュアー: 面白いと思ったのは、このコートには「動きがあるという印象を受けます。もちろん動いてはないんですけど、なんかこの色が動いているように見えます。 服部: そうです。グラデーションが入っているので、それによってこの風がバーと後ろに流れているのを感じてもらえるかなと思います。 インタビュアー: それは本当に感じます。この部分についてもどうしても聞きたかったです。 アニメの色を単純に再現するのではなくいろいろ考えながら塗装を整えているんですね。 服部: アニメの設定をしっかり守りながらもフィギュアとしてどこまでいけるかですね。 質問 5 インタビュアー: 個人的には「フィギュアのベース」はすごく大事と思っています。ベースがあまりにもシンプルだととても残念な気持ちが残る。今回のベースはすごく魅力的だと思って、この形とこの文字はトライガンぽいですね、どのようなインスピレーションからこのベースが生まれた経緯について教えてください。すこしクラシカルな『トライガン』の雰囲気を感じます。 服部: 今回の台座・ベースですけど、アニメの中では空中戦だったんですよね。なので、赤いヴァッシュのようなビネットの風景にはできないなあと思って(笑) じゃあどうしよう?ってなった時に、前回のトライガンフィギュア(『劇場版TRIGUN Badlands Rumble』)でやった手法が一番合うんじゃないかっていうところで。そのフィギュアと少し地続きにさせていただくというか、ちょっと続き・シリーズものだよみたいな(笑) なぜかと言うと、コトブキヤのトライガンフィギュアシリーズを買い続けてくれてるファンの方のためにも、ちょっとシリーズの統一感が出るといいなっていう。 その結果、今回のアクリル台座にしてみました。 インタビュアー: 確かにそれだとこれまでの商品に繋がりますね。この文字と雰囲気はとてもトライガンぽいなと思いました。 服部: 前の劇場版トライガンのフィギュアがありきで(笑)そこからの流れで。 台座の模様 はデザイン部署の池田さん にお願いしたんですよ。凄い大変だったと思うんですけど、めちゃくちゃカッコいいものに仕上がってて。もうこれ以上無いくらいっていうのを仕上げてくれました。 インタビュアー: このベースの模様にも「動き」を感じます。 服部: 全部を紫色で埋めちゃうんじゃなくてクリアで色を抜いてある所とか、黒い模様がうまい具合にちりばめてあるという。そういう所が『トライガン』という作品のデザインに繫がっている。 インタビュアー: ベースだけでも1つの世界がありますね。 質問 6 インタビュアー: 今までフィギュア本体についていろいろ話しましたが、忘れてはいけないのは『ARTFX J ヴァッシュ・ザ・スタンピード -The Gunman in Black- TRIGUN STAMPEDE Ver.』にはNightow先生のフィギュアが同梱されています。 服部さんは先生のミニフィギュアを作るのは初めてではないと伺っていますが、今回どんな意図で作られたのでしょうか? 服部: トライガン好きの方は必ず漫画の中とかで出会ってる内藤先生なんですよね。だから多分みんな好きだと思うんで。みんな好きならば立体化しなきゃいけないっていう。みんなの心の中にあるので、このディフォルメの先生が(笑) それは立体化しないとマズいでしょっていう本当に単純な、でも絶対に必要な要素として内藤先生も登場していただいたという感じです。 インタビュアー: このミニフィギュアは本当に好きです。 服部: このスタンピードのヴァッシュに扮装した内藤先生は、詳しい方ならわかると思うんですけど、オレンジさんのホームページに一枚、顔だけの紹介イラストがあってそこから作り起こしたんです。なので許諾をいただけるかは未知数ではあったんですけど(笑)。 インタビュアー: すごい、じゃ本当に「これ使っていいですか」のところから始まったのしょうか? 服部: そうです。なので、どこから立体化したんだ?って思う方もいると思うんですけど、ちゃんと一枚絵があって。 インタビュアー: ミニフィギュアのコートはやっぱり 『TRIGUN STAMPEDE』 のコートをベースにしたんですか? 服部: ここはぼくのほうでアレンジさせていただいて。たぶんこんな感じだろうなって。内藤先生がヴァッシュの衣装着たらこんな感じかなっていうので、ぼくのほうで考えて作らせてもらったんですけど。 インタビュアー: ミニフィギュアのベースに「文字?」、「絵?」があるんですけど、ここはどこから持ってきたんでしょうか? 服部: この模様は実は内藤先生のサインになっていて。しかもちゃんと内藤先生ご本人に書いていただいたサインで。内藤先生のサインが欲しいなってなってる方はこのフィギュア買っていただいたら、同時にサインも手に入ってしまうという非常にお得な(笑) デザインとか模様か?と思わせつつ、しっかり内藤先生のサインです。 インタビュアー: ミニフィギュアの台座はヴァッシュの腕のところから持ってきたんですか?内藤先生の小さな袖部分もそうですね。 服部: 全然おまけじゃなくて、ひとつのフィギュアとしても充分に鑑賞に堪えうる出来です(笑) インタビュアー: そうだと思いますよ、すごい楽しめるので! 服部: これだけでも買う価値がありますよっていう。 人によってはヴァッシュ本体がおまけになるかもしれない(笑) 先生のほうがメインでヴァッシュのほうがおまけ、という認識の方もいるかもしれないぐらい、っていうフィギュアです。 インタビュアー: 本当にその通りだと思います、どっちも大事ですね! 質問 7 最後になりますが、服部さんが原型師における『トライガン』への強い情熱が今までの話から感じ取れました。服部さん個人として 『TRIGUN STAMPEDE』 が初めて発表された時はすごい嬉しかったと思いますが、やっぱりまた原型を作りたいと思いました? 服部: 『TRIGUN STAMPEDE』 のアニメ化が発表された時に、みんな期待と同時に不安が生まれたと思うんですよ。あの完成されたストーリーを今アニメにするってどうなるんだろうって… そんなところでオレンジさんがとんでもないアニメを作り上げたじゃないですか。 最高の、めちゃくちゃ凄いアニメで。 それとはまた別に、ぼくは『トライガン』のフィギュアをずっと作りたい人なので。なんか機会があればとにかく作りたい(笑) インタビュアー: もう第1話から頭の中で作り始めてたんじゃないですか?(笑) 服部: そうです、頭の方でいつも作ってて。 通常のヴァッシュはアニメ放映前には原型は作っていて、今回の黒ヴァッシュはアニメを全部観てから作れたので、ずいぶん状況が違ってました(笑) アニメを自分の中で消化した上で造形できたので、大満足というか。やりたいことを入れ込めた。 インタビュアー: それは本当にその気持ちはフィギュアに現れていると思います。 通常のヴァッシュは設定資料とかを参考しながら作ったということですか。 服部: そうです、赤い通常ヴァッシュは映像として見ていない頃に作ったので。でも黒ヴァッシュは全部観てるから、悔いなく表現できたと思います。 最後に インタビュアー: 今までの話の中で情熱とか細かいディテールなどが出ましたが、原型師という仕事には、アーティストとして何を表現したいことが重要なんだと感じました。 壽屋のロゴには「KOTOBUKIYA」だけではなく「 CRAFTSMANSHIP 」という言葉、日本語では「職人の魂」という言葉がロゴに含まれています。もちろん人によって言葉の意味変わると思いますが、服部さんにとっては仕事の中で「職人の魂」はどこで働いていると思いますか? 服部: う~ん、 CRAFTSMANSHIP は毎日、頭の中に常にあるわけじゃないけど、気持ちとしては常にある。それは原型師だからあるっていうわけじゃなくて、たぶんこの会社に勤めている人たちは、コトバとしては無いけど気持ちの中には絶対あるはず。 原型師はわかりやすくフィギュアとして落とし込めるけど、そうじゃない人たちの熱意も会社の中には絶対にあるはずで。それでみんなの力が集まると、こういう商品が出来上がる。生まれると思います。 インタビュアー: 職人の魂からこのような商品が生まれる。仰る通り原型師はわかりやすいかもしれないけどやっぱりいろんな人が関わってこそ、ここまでの商品になるのでしょうね 。 服部: ひとりじゃできないことなので、原型がどれだけ良くても。 いろんな人の力が合わさって、イイ商品になると! どんな言葉にするかは難しいけど、心の中に絶対にある。 インタビュアー: そうですねそれは「なにか」と説明するのは難しいけど皆どこかに働いていると思います。 本日長い間付き合ってくださって誠にありがとうございました。! ※左:インタビュアー、右:服部達也(原型師) ※画像は試作品です。実際の商品とは多少異なる場合がございます。 ※撮影の条件・お使いのパソコンの環境などによって、色・見え方が違う場合がございます。 © 2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会